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 『群青 愛が沈んだ海の色』の撮影は、2008年7月から8 月初旬にかけて、沖縄県・渡名喜島で行われた。撮影隊が初めて入る島で、赤がわら屋根の家並み、緑深いフクギ並木が続く景観は、2000 年5月に国の重要伝統的建造物郡保存地区に選定されている。観光地化されておらず、沖縄で生まれ育ったスタッフの中にも、この島の存在を知らなかった人がいたほど。自然が豊かな静かな島で、夜は街灯ならぬ、フットライトが照らされるのが幻想的で美しい。白砂の小道にはゴミ一つないが、それはこの島で長年続いている早朝のお掃除会のおかげ。夏の暑い日には、裸足で道を歩いているおばあちゃんも!制作部は撮影の2ヶ月前から島に入り、準備をしつつ、地元の人たちと夜毎、浜辺で酒を飲み交わして親交を深めていった。

 クランクインに先立って、映画撮影前には欠かせない恒例行事の御祓いが行われた。一箇所で行われるのが一般的だが、『群青』では、島のカミンチュ(神人)さん3 人の勧めにしたがって17 箇所をめぐることに。約5 時間の儀式を終え、最後の場所で御祓いを終えた後には、吉報を継げるとされる鶯の鳴き声が聞こえ、島の人たちも安心して、撮影隊を温かく迎えてくださった。加えて、田中美里さんが渡名喜入りする船と、渡名喜の村長が乗った船が港で交差するという現象が起こったのも幸運のサインとされた。というのも、船の往来が他の島に比べて少ない渡名喜で、船が交差するのは珍しいのだとか。ちなみに、那覇から渡名喜まではフェリーで約2 時間15 分。1日1便のみ。渡名喜から那覇に向かう船も1日2便あるのは週2回だけで、後は1日1 便しかない。

 これまでミュージカルなど舞台中心に活躍し、本作が初の映画出演作となる良知真次さん。一也役で三線と沖縄民謡を披露するため、数々の受賞歴を誇る三線奏者であり、国指定重要無形文化財「組踊」伝承者としても認定されているミュージシャンのよなは徹さんのレッスンを受けた。さらに渡名喜島滞在時は、島で一番の三線の弾き手である上原行雄さんからも指導を受けた。大介の壮行会が行われる居酒屋のシーンで披露しているのは、「渡名喜ジントーヨー」と呼ばれる、渡名喜島に伝わる民謡である。このシーンには、渡名喜島の人たちにも出演していただくため、一緒に歌える沖縄民謡ということで選ばれた。見事な演奏と歌声を披露した良知さんは、「歌を通して島の方々とコミュニケーションが取れました」と語っている。一方、一也が凉子に捧げる歌「トゥバラーマ」は、劇中のセリフにもあるように、男性が女性に思いを伝える愛の歌。

 余命わずかな世界的ピアニストを演じる田中美里さん。実は、本作の出演が決まった時点では、まったくピアノが弾けなかったが、電子ピアノを自宅に置いて、約半年の間、夢に出てくるほど猛特訓を重ねた。田中さんがマスターしなければならなかった曲は、脚本段階ですでに記されていた「亡き王女のためのパヴァーヌ」。「ボレロ」などで知られるフランスの作曲家、モーリス・ラヴェルが1899 年に作曲した曲で、監督が選んだもの。ピアノ指導を担当した森貴子さんによると、「初心者はまず弾けない曲」なのだが、「田中さんは、ご自分で弾けるレベルまで上達されました。撮影では、ピアニストとしての自然な動きも表現され、さすがだなと思いました」とのこと。 また、由起子の娘、凉子を演じる長澤まさみさんも、母譲りのピアノの腕を披露するシーンがある。演奏するのは、この映画のために書き下ろされた「Ryoko」という曲だ。長澤さんは、部屋に置いたキーボードや、渡名喜島の小学校のピアノで、特訓を積んだ。「長澤さんはプロのピアニスト役ではないので、凉子風の自然な動きで、思いを込めて弾いていただきました。曲をきちんと暗記して、ご自分で熱心に練習されていました」と森さんは語る。 クランクイン初日に撮影されたのは、田中さん演じる由起子が、公民館でひとりグランドピアノを弾くシーン。白いカーテンが風になびく中、見事な演奏を披露した田中さんの姿に、現場の雰囲気も盛り上がり、キャスト、スタッフの間に強い一体感が生まれた。