映画『はやぶさ/HAYABUSA』公式サイト 10.1 ROADSHOW

プロダクション・ノート

日本中を感動させた〈はやぶさ〉、
映画化実現までの道のり

2010年春、アグン・インクのプロデューサー井上潔は、小惑星探査機〈はやぶさ〉について精力的に調べていた。世界初のミッションを次々に達成し、7年ぶりに地球に戻ろうとしている〈はやぶさ〉、そして瀕死の状態の〈はやぶさ〉を救出しようと懸命な努力を続ける日本人科学者たち。井上は〈はやぶさ〉について知れば知るほど、このような物語こそ今の自分たちに必要なのではないかと思い至る。そして6月13日、〈はやぶさ〉奇跡の帰還が日本中を感動の渦に巻き込む。
 20世紀フォックス インターナショナルプロダクション(以下、FIP)の社長、サンフォード・パニッチは、優れた映画のアイデアを求めて定期的に日本を訪れていた。折しも6月に来日していたパニッチは井上と出会う。〈はやぶさ〉の偉業と、その帰還に湧く日本の盛り上がりを知り、映画化にふさわしい題材だと直感したパニッチは、井上と企画開発の契約を交わすことを決める。それにより、20世紀フォックスが企画開発から指揮を執る初めての邦画プロジェクトが誕生する。
 8月には宇宙航空研究開発機構(JAXA)に取材を開始。JAXAには、20世紀フォックスを含め数社から映画化の話が来ている状況だった(最終的には8社からオファーがあった)。JAXAから〈はやぶさ〉プロジェクトに直接関わった宇宙科学研究所(ISAS)を紹介された井上ら映画製作者サイドは、30人以上もの関係者に何回にも渡ってインタビューを重ね、徐々にストーリーの骨子を固めていった。井上はインタビューをするうちに映画が目指すべき方向性を見つけることができたと語る。
「〈はやぶさ〉のことを知りたいだけだったら、ドキュメンタリーには勝てません。でも私たちはプロジェクトに関わった人たちの顔が見えるような作品にしたいと思っていたので、その意図を〈はやぶさ〉プロジェクトマネージャーの川口淳一郎先生に説明しました。印象的だったのは、先生方が皆さん“いろいろな困難に見舞われても、それを乗り越えようとすることが楽しかった。〈はやぶさ〉のプロジェクトが本当に面白かったから”とおっしゃっていたことです。私たちが〈はやぶさ〉に対して抱いた思いや感動を形にするのではなく、関係した方たちの思い、その熱さをどうやって伝えるか。それが重要なんだという思いを強くしました」
 FIPのパニッチが再び来日した9月、井上から企画の進捗状況が説明される。この時、〈はやぶさ〉プロジェクトに関わった多くの人々のインタビューの内容、実際に起こった感動的なエピソードの数々を聞いたパニッチは、他社の企画に先駆けて最初に脚本を完成できると確信する。さらに、井上は「この企画はぜひとも堤幸彦監督にお願いしたい!」と多忙な堤監督を口説き、メインキャストも固まり始める。
 年が明けて2011年1月。先行して着手していたCGの開発作業に加え、ロケハンなど、本格的な製作準備を開始する。一方、アメリカの20世紀フォックス本社の製作メンバーも、カリフォルニアにあるNASAの設備の撮影許可を取るなど、共同で準備を開始していた。
 3月11日に起きた未曾有の大地震によって、ガソリン、電力事情の悪化が懸念される中、スタッフの驚異的な尽力によって、4月13日に無事にクランクインを果たした。


JAXA関係者も驚愕した
堤組のリアリティへのこだわり

 JAXA全面協力のもとで始動した『はやぶさ/HAYABUSA』。宇宙の分野では世界的にも珍しい“理工一体”のプロジェクトである〈はやぶさ〉の映画化ということで、小惑星〈イトカワ〉を調べる“理学”、探査機の運行を司る“工学”、それぞれの分野の重要なシーンでは、JAXAの専門家が撮影に立ち会い、セリフなどの監修を務めた。そして、撮影はJAXAの相模原キャンパスでも連日行われた。マスコミのための会見が実際に行われた会議室をはじめ、様々な場所で撮影が敢行されたが、その中でも特別な緊張感を持って撮影されたのが、特殊実験棟内にある「イオンエンジン耐久性評価システム」。イオンエンジンの耐久性を宇宙空間と同じ真空状態でテストするための装置で、大規模なものは日本に1台しかない。撮影NGと思われていた設備だが、交渉の結果、少人数での撮影が許可されて貴重な映像を収めることに成功した。
 管制室は現在も使用中であるため撮影はできなかったが、その代わりに日活スタジオにまったく同じ大きさのセットが組まれた。モニターやコンピューターの数、天井の明かりの配置、壁の貼り紙に至るまで忠実に再現された管制室のクオリティには、監修で撮影現場を訪れたJAXAスタッフ全員が「何分かいると、本当の管制室にいる気分になってくる」と驚いた。管制室の隣にある第二運用室の壁に貼られていたバスの時刻表を見つけた〈はやぶさ〉プロジェクトマネージャーの川口淳一郎氏からも「本当にこういう感じでした」とお墨付きが与えられた。
 また、監修を務めた多くのJAXA関係者がこっそりとカメオ出演しているのも興味深い。例えば、相模原キャンパスの中庭で気球を上げてカプセルの回収訓練をするシーンでは、気球を上げる担当、探査用のアンテナを設置する担当など全員が現役のスタッフであり、実際にオーストラリアのウーメラ砂漠にカプセルの回収に行った人たちなのである(回収シーンは実際にウーメラ砂漠でのロケが敢行された)。
 もちろん、管制室や実験室がリアルなだけでは完成しない。映画『はやぶさ/HAYABUSA』は地上だけでなく、宇宙も舞台なのだから。〈はやぶさ〉は地球から3億キロの彼方にある〈イトカワ〉を無事に撮影してきたが、“深宇宙”を旅する〈はやぶさ〉自体の姿をとらえた写真や映像は当然のことながら存在しない。そこで必要になるのが、CGによる再現映像である。JAXAの依頼で〈はやぶさ〉を描いてきた池下章裕氏のイラストを参考にし、VFXスーパーバイザーの野﨑宏二たちスタッフが、精密でリアルなCG映像を作り上げた。〈はやぶさ〉の満身創痍になりながらの旅路を見事に再現した映像が、感動を呼び起こすことは間違いない。


モデルとなった人物に
敬意を払った俳優たちの役作り

 映画『はやぶさ/HAYABUSA』は〈はやぶさ〉そのもののドキュメンタリーでもなければ、再現VTRでもない。堤監督も〈はやぶさ〉の物語ではなく、僕が作るのは人間のドラマです」と語っている。だからこそ、キャスティングにも演出にもこだわった。「登場人物のモデルになった方たちに最大限の敬意を払わないといけない」と井上プロデューサーはつけ加える。俳優たちもこれまでとは違う意識で演技に取り組んだ。
 他の誰よりも外見がモデルの人物に似ていると現場で評判だったのは、川口淳一郎氏をもとにした川渕幸一役の佐野史郎。現場で資料映像を見ながら、仕草まで真似する入れ込みようだった。
「これまでにも実在する人を演じたことはありますが、結局はフィクションなんだと思って演じることが多いんですね。ただ、今回の場合は宇宙の探査というプロジェクトも現在進行形ですし、監督からも“完コピ”という言葉を聞いていたので、じゃあやってやろうじゃないかと(笑)。でも、最初は外見や仕草を模写するところから入るんですけど、最後はどういうふうに考えているのかなとか、内面の方にしか気持ちがいかなくなります。結局は川口先生の考え方そのものと同調できないといけないんです。ですから、先生の著書はいつも現場に持っていっていましたね。『〈はやぶさ〉式思考法』で書かれていることは、そのまま演技論につながる気がして、すごく参考になりました」
 ただし、あまりに〈はやぶさ〉プロジェクトマネージャーの役になりきろうとしたせいで、ヘトヘトになったと佐野は苦笑する。
「撮影初日の午前中、僕はセリフがなくて、管制室のモニターで〈はやぶさ〉を見守るというシーンでした。でも、3億キロ離れた宇宙で、直径500メートルほどの小惑星に降り立つ探査機、そしてそれを見失う……そういうことをイメージしながら演技しようとしたんですけど、エネルギーをいくら費やしてもなかなか想像ができなくて。実はこれが110本目の出演作なんですが、こんなに疲れたのは初めてかもしれません」
 JAXA対外協力室室長だった的川泰宣氏をモデルにした的場泰弘役の西田敏行は、〈はやぶさ〉の講演をするシーンの撮影で、見学に訪れた的川氏本人と顔を合わせた。
「必ずしも似ている必要はないんでしょうけど、似ている方が観客の方たちの心が入りやすいということもあるかもしれませんし、監督の要望もありましたので、似るように努力はしました。私が実在の人物を演じる時は、お人柄のいい方の役ばっかりなんですよ(笑)。的川先生が現場にいらっしゃった時に意気投合したといいますか、人となりを知ることができました。私しか的川先生は演じられないだろうという自負を持ちましたね(笑)」
 的川氏も実際に西田の演技を見て、賞賛を惜しまない。
「西田敏行さんが私の役を演じてくださったというのは、大変光栄なことです。撮影現場で初めてお会いした時、西田さんは専門用語を覚えるのに苦労されていたようですが、映像を見ると不自然さがまるでなく、私の講演よりもはるかに迫力があってすばらしいと思いました。また、現場でお話してみて、映画を通して想像していた通りの方だと感じました。役を演じられている時も、ご本人のあたたかい人柄がベースになっているからなのでしょう」
 他の登場人物と違い、様々な人物をミックスしてでき上がったキャラクター、水沢恵役を演じた竹内結子はこれまでにない姿を見せている。ほぼノーメイクにメガネ、シャツはパンツにイン、背中にリュック、肩にトートバッグ……。当時のファッションを再現するべく、極端にハイウエストなパンツなど、ほとんどがこの作品のために作られたものだという。あまりにも地味な見た目だったため、現場で竹内を呼びに行ったスタッフが目の前を素通りしたこともあった。
「メイクの時間が男性のキャストの方より短いことがしょっちゅうで(笑)。恵は機能性重視で北海道大学のジャージをパジャマにしているんですけど、私もその格好でコンビニに行ってみたんですね。見事に誰にも気付かれなかったですね(笑)。いつもとは違う感覚で人と接しているような演技ができて楽しかったですね」
 恵は主人公であり、モノローグのシーンもあるため、竹内は専門用語が入ったセリフを言う機会が多かった。しかし、それを乗り越えることで、〈はやぶさ〉プロジェクトへの理解を深めることができたという。
「ある程度意味を理解していないと覚えられないので、本やインターネットなどで調べてみるんですけど、その説明に使われている言葉がまたわからなくて調べる、その繰り返しで果てしないことになってしまい……。研究者の方たちはそういう時にもっと知りたいという欲求が湧くんだろうなと思いました。JAXAの方たちと実際に会ったり、JAXAで撮影したりして、これまでは身近に感じられなかった宇宙への考え方が変わりました。宇宙に辿り着くまでのことは全部人の手による手作りなんだと肌で実感しました」
 ある日、撮影現場に急遽ステージが設けられたことがあった。管制室のスタッフを演じていたコントユニット「夜ふかしの会」のメンバーとお笑いトリオ「フラミンゴ」のメンバーがJAXAをネタにしたコントを披露したのだ。堤組の現場の雰囲気のよさ、そして端役でさえもJAXAや〈はやぶさ〉について理解していることを象徴する出来事だった。映画『はやぶさ/HAYABUSA』には隅々まで情熱が込められているのだ。。

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