撮影日誌 Making of "OUT"


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このコーナーではスタッフの撮影日誌をもとに、「OUT」クランク・インからクランク・アップまでの約一ヵ月半に及ぶ撮影の模様をお伝えします。

2月16日(土) 日活撮影所 雅子の家 〜クランク・イン〜

 2月16日、調布の日活撮影所でフィルムは回りはじめた。舞台は、香取雅子の自宅セット。ファーストカットは、雅子(原田美枝子)が山本弥生(西田尚美)から電話を受けるシーン。西田もこの日は撮影はないが、電話の声を録るためにスタジオ入りした。奇しくもこの日は、西田の30回目の誕生日。スタッフからのバースデーケーキのお祝いで、彼女の30代初の出演作が幕を開けた。

 夕方になって、吾妻ヨシエ役の倍賞美津子がスタジオ入り。明後日からの死体解体シーンのリハーサル。ここでは合成カットが含まれる為、俳優とカメラの動きに制約がある。そこで合成用の絵コンテをもとに、演技のテストが繰り返される。


2月18日(月)から20日(水) 日活撮影所 雅子の家・浴室 〜死体解体〜

 2月18日から20日は、浴室のセットで、弥生の夫・健司(大森南朋)の死体を解体するシーン。まずは、健司の首が切断されるまでを生身の大森自身が演じる。   頭部切断のあとは、いよいよバラバラの人体のプロップ(造型物)が登場。あまりのリアルさに、原田が「夢に出てきそう…」と呟く。



2月22日(金) 日活撮影所 雅子の家(最終日) 〜雅子の葛藤〜

 2月22日は、雅子の家のセットでの最後の撮影。この日から、十文字彬役の香川照之が参加した。香川の演技は、一見好青年風でダークな側面は感じさせない。

 夕方からは、原田の単独シーン。この作品の中で、雅子ほど明と暗の振幅の激しい役柄はない。ヨシエたちとの軽妙な会話から一転して、『ピクミン〜愛のうた』を口ずさむところや、家族とのドア越しの一方通行のセリフなど、雅子の心情は重い。雅子のキャラクターは、原作よりも人間的な弱さを持ち、困惑する様が強調されている。


3月9日(土)、10日(日)、13日(水)ロケーション 撮影1〜十文字の方言と佐竹の存在感〜

 3月9、10日は、西武新宿線富士見台駅周辺の商店街にてロケ。商店街のど真ん中にあるビルの二階が、十文字のローン会社として使用された。ここから佐竹光義役の間寛平が参加。佐竹に襲われて、十文字役の香川が脚本にはない『うちはバックついとるけん!』という博多弁を口にする。これは十文字の郷里が九州の飯塚であるという設定から生まれた、香川自身のアイディア。

 3月13日は、印刷工場<所沢ビーエフ>でのロケ。弁当工場の更衣室と控室のシーンが撮影された。午前中に雅子と弥生の芝居を撮影し、お昼は社員の食事があるので一時中断となった。昼休みに集まった女性社員たちに、室井が記念撮影をせがまれた。親しみやすいキャラクターで支持される室井の人気がうかがえる。その後、更衣室での撮影を経て、夕方から再び雅子とヨシエの控室での芝居となった。



3月14日(木)国分寺市ロケ 雅子の家・外観 〜雅子とヨシエの姉妹愛〜

 3月14日は、大きなヤマ場となる雅子とヨシエのナイトシーン。今日の倍賞の衣裳は、いつものオバサン然とした装いから一転して黒のシックなワンピース。胸元には真珠のネックレスも輝いている。ヨシエは、ここで人生に決着を付ける。その区切りとしての倍賞なりのアプローチである。対する原田は、気丈な雅子が唯一弱さを見せる瞬間をこのシーンに込めて演じている。『さびしいよ…』と倍賞にゆらりと寄り添う原田の演技に、姉妹のような関係が表出してくる。



3月17日(日)、18日(月) 神奈川県綾瀬市 弁当工場〜邦子の性〜

 3月17、18日は雅子たち4人の職場のシーンが撮影された。この撮影にはエキストラの他に、ここで働くパートの主婦およそ20名が参加した。弁当の詰め込み作業はコツのいる仕事であり、エキストラがすぐにこなせるものではない。パートの主婦による指導のもと、作業を教わる原田、倍賞、室井、西田。持ち前の勘の良さか、4人とも予想以上に早く作業行程を覚えていく。マスクと帽子を被った状態では、パートの主婦たちと判別がつかないほどだ。しかし、室井だけは一目瞭然。マスク越しにも、やる気のないダラダラとした動きがはっきりと分かる。これももちろん室井の役作り。



3月22日(金) ロケーション 撮影2 〜所在なき男たち〜

 3月22日は、新宿のライブハウス<クラブワイヤー>を使用して裏カジノのシーンの撮影。実際の裏カジノはマンションの一室で行われていて、いかがわしいイメージとは程遠い。そこで映画的なディフォルメで、薄暗いライブハウスにバカラ・テーブルやルーレット台を持ち込むこととなった。

 この撮影で初めて、健司役の大森が“生きている状態”での出演となった。また、佐竹役の間は、カウンターの隅に座って文庫本を読んでいるという設定で登場した。



3月23日(土)日活撮影所 弥生の部屋 〜弥生の魅力〜

 3月23日からは、再びセットに戻っての撮影。この日の舞台は、弥生の部屋。朝9時から、弥生の夫殺しのシーンが始まった。これまではコメディ・タッチの作品が多かった西田にとって、シリアスな演技が要求される。西田=弥生は、殺人を犯すが確信犯ではない。弥生の気持ちに、観客が乗れるかどうかでこの物語の導入が決定付けられる。


3月26日(火)、27日(水)日活撮影所ヨシエの家〜佐竹の狂気〜

 3月26、27日の舞台は、ヨシエの家。26日は、姑の千代子を演じる千石規子が現場入りした。テストが始まると、千石は倍賞に向かって『ヨシエ母ちゃん』と呼び掛ける。これは脚本にはないセリフだ。倍賞もセリフの語尾をおどけた調子に変えることで、千代子との親密度を高めていく。そこに、姑と嫁の関係にもかかわらず、互いにたった一人の身寄りだという博愛が感じ取れる。待ち時間も、お話好きの千石は、倍賞の横に座って終始話し込んでいる。

 27日は、今日が最後の出演となる間寛平が久々に登場。ヨシエと佐竹とのアクションシーンを撮影。間は、セットにじっと佇んでいる。飾らず、作らず、ただ存在することが佐竹の狂気を表現する方法であることを、舞台人でもある間は本能で身に付けた。間の迫真の演技に、倍賞にも緊迫感が漲る。


3月29日(金)日活撮影所 カラオケボックス 〜桐野夏生来訪〜

 3月29日は、弁当工場以来、久々に4人の女優が揃っての撮影日。この日の舞台は、カラオケボックスのセット。『ミニモニ。ジャンケンぴょん!』は、平山からの「みんなで唄って、一番馬鹿馬鹿しい曲は?」との質問に室井と西田が提案した。助監督たちが振り付けを指導するが、室井と西田が踊った方がはるかに上手い!

 午後になって、原作者の桐野夏生が現場見学に訪れた。室井と桐野は、以前からの麻雀仲間でもある。また、桐野は自作「光源」の取材の為に「ナビィの恋」の現場を訪ねていて、西田とも面識があった。現場の様子を見てから、撮影の合間で4人の女優との記念写真。


3月30日(土)日活撮影所 邦子の部屋/グラウンド・ロケ 〜クランク・アップ〜

 3月30日、いよいよ最終日を迎えた。邦子の部屋で、十文字の訪問シーンの撮影。 いつもに比べて、今日の室井はややトーンを落とした調子で演じている。 自宅の邦子はいつもより質素。化粧を落とし、ブランド品を脱いで、 外界に対しての鎧を外した無防備な女。そこに、邦子の孤独感が漂う。 このシーンの撮影で、香川もすべての出演を終えた。

 午後になって、原田、倍賞、西田がスタジオ入り。メインタイトル前の4人の ショットのためだ。撮影は、多摩川沿いのグラウンドの駐車場を使用して行われ た。西の空に太陽が沈んだタイミングで、平山の「本番!」の声。ハイスピ ード・カメラが4人が振り返るまでの動きを追う。「カット!!」の声が響き、こ の映画の撮影は幕を閉じた。